ショーン・オリーブ氏によるヘッドフォン、ヘッドセット計測セミナー

ハーマン・インターナショナルの音響学研究所フェローで、Audio Engineering Society(AES)の元会長であるショーン・オリーブ氏が、過去5年間行ってきたヘッドフォンのターゲット応答曲線に関する研究を総括する発表を行った。多くは私にとってなじみのある分野ではあったが、興味深い新たな情報もいくつか含まれていた。

 

私がショーンの研究を見ていつも驚くことは、彼の研究がいかに耐え難いほど時間を要するものであり、かつ整然としたものであるかという点である。長い間、私は良いヘッドフォンとは、快適な部屋の中で耳に心地よい話し方をする人のような存在であるべきだと考えていた。ただし、音響環境が完全に異なることを考慮すれば、それはできる範囲でそうあるべき、ということになる。口で説明することは簡単なことではあるが、それを科学的に証明することはまた別の話である。

 

ハーマン・グループは過去5年間、ヘッドフォンにおける標準化されたターゲット曲線の開発に関して、さまざまな側面から14本の論文を発表してきた。ターゲット曲線の開発に至るいずれのステップにおいても、次の一歩を踏み出すには、既存の研究結果で判明したエラーを検証することが大事である。

有り難いことに、ハーマンはそうした労力を費やすことを厭わなかった。きっと、私にはそこまでの忍耐力がなかったことだろう。

ハーマン・グループが説得力のある証明を築くために行ってきたことは以下の通りである。

 

ヘッドフォンを使用したブラインド・テストは難しいものである。被験者(リスナー)はヘッドフォンのフィット感や人間工学(デザイン)から、今どんなヘッドフォンを身に着けているのかを見分けることができる可能性があるからである。

そのため、ハーマンが開発した方法は、ひとつのテストモデル用ヘッドフォンでさまざまな音を総合的に流すことで、仮想化されたヘッドフォンでの複数の音の特徴を簡単に切り替えることができるようにしたのである。
その後、ハーマンは主観ブラインド・テストを何度となく行わなければならなかった。実物のヘッドフォンを使ったテストと仮想ヘッドフォンを使ったテストの結果に関連性があることを念のため確かめるためである。
試聴テストをターゲット曲線の開発と並行して実施し、テスト結果を分析し、人口統計的に分類を行ってきた。
年齢、性別、文化的背景、聴音に関する専門知識の有無が全て、それぞれの聴音嗜好で共通性を得るために調査対象とされたのである。

分析の結果、些細な例外を除き、驚くほどの一貫性があった。

例えば、聴音機会が多い被験者の間は、聴音機会の少ない被験者よりも意見の一致が見られやすく、かつ辛口の評価を下す傾向にあった。

また、年齢の高い被験者は、聴力の衰えゆえか、低音よりも振動を好む傾向にあった。一方で、大学生でかつ聴音機会の少ない被験者は聴音機会の多い被験者よりも低音を好む傾向にあった。

ヘッドフォンの耳への密閉度は完全ではないことにより生じる可能性がある誤差を考慮した、テスト結果の検証も行われた。自分にとって最適な聞き心地を得るために低音レベルと振動レベルを調整できる被験者を用いて、ターゲット曲線の嗜好テストが何度も行われた。

このテストは、開発中のターゲット曲線を微調整するために行われた。主観テストの期間中は、被験者が多くのヘッドフォンを使った試聴により疲れを軽減するためにも、提示されるヘッドフォンの数を制限することが大事となる。

通常のテストでは、被験者は約5台のヘッドフォンを使って試聴をする。

テストにおいて数種類のヘッドフォンを使用することで、そこから流れるサンプリング音の音波特性の違いによって、テスト結果に何らかの影響を与えることが判明した。


 これ以外にも数々の作業や成果があるのだが、ここに挙げた情報だけでも十分価値があり、大変参考となった。

オンイヤー・ヘッドフォンが耳へ密閉しやすくしつつ、人間の耳に近い反応を提供するために開発された実験用イヤーピース

 

10種類の異なるヘッドフォンと、耳の中にマイクロフォンを取り付けた8人の被験者による計測を用いて、トッド・ウェルチ氏は、通常よりも高い密閉性を与えることができ、かつ実際の人間の耳により近い反応を示す試験用イヤーピースを開発した。

改めて、リッスン社が発表した論文に注目したい。このイヤーピースの開発で使用された応答曲線図のページは大変役に立つ。

鼓膜部分を基準とした反応曲線図:

緑破線: 平坦な室内インパルス応答と得るために均一化が図られたスピーカー

黒線: 以前のハーマンのヘッドフォンのターゲット反応曲線

青線: 主観テストを通じて開発された、改良版ターゲット反応曲線

 

これまでにハーマンが開発したターゲット反応は、今回、低音域と高音域の調整が可能な複数の被験者によるブラインド・テストで検証がなされた。このテスト結果から、ハーマンの研究者たちはさらに正確かつ主観的なテスト曲線の開発に的を絞ることが可能となった。

 

黒線: 旧来のハーマンのイヤーヘッドフォンにおけるターゲット反応曲線

赤破線: 改良されたアラウンド・イヤー(AE)ヘッドフォンのターゲット反応曲線

青線: 新しいインイヤーモニター(IEM)のターゲット反応曲線

 

ショーンたちはインイヤー・モニター(IEM)のターゲット応答曲線に関する研究も行ってきた。これに関しても多くの詳細が発表されたが、この研究で判明したことは、人々はIEMでの4dBから6dB程の低音(鼓膜部分での音量を基準)をアラウンドイヤー・ヘッドフォンやオーバーイヤー・ヘッドフォンよりも好んでいる点である。

 

この結果は自分でも納得がいく内容だった。これ自体は細かな影響ではあるけれども、オーバーイヤー・ヘッドフォンやオンイヤー・ヘッドフォンは、内蔵や触覚、骨に伝わる低振動情報を提供するものだと思っているからである。

ただしオンイヤー・ヘッドフォンの情報量はオーバーイヤー・ヘッドフォンよりは幾分少ない。いずれにしろ、IEMのユーザには残念なことではある。IEMは鼓膜を小刻みに揺らすだけなのである。

もちろんこれは個人的意見にすぎないが、おそらく3年後にはショーンが信頼できる説明をしてくれるだろう

 

心の奥底からの感謝!

私は、どの話から始めるべきかわからないくらい興奮し、そしてゾクゾクしている。まずは、ヘッドフォン測定の深堀りのことから始めたい。リッスン社が私に対して有益なInnerFidelityヘッドフォン測定プログラムを計画することに手助けしようと決断されたことに、大変感謝している。

 

 

ヘッドフォン計測セミナーはさまざまな点で驚きの発見が多い。リッスン社、G.R.A.Sそしてハーマンによる、極めて難しく、かつ正確な研究に触れられるのは本当にためになることである。まだまだ知らないことが多いのだなと痛感させられた。

 

ヘッドフォン計測に大きな関心がある人には、リッスン社のヘッドフォン計測セミナーへの参加するのが望ましい。今後のイベントについてはこちらを参照されたい。

(以下innerfidelityより抜粋)

https://www.innerfidelity.com/content/headphone-and-headset-measurement-seminar-sean-olive

 

Dr. Sean Olive (ショーンオリーブ博士)

米国カリフォルニア州オークパーク
ショーンオリーブは、消費者、専門家、および自動車スペース向けのオーディオ製品の大手メーカーであるハーマンインターナショナルのシニアリサーチフェローです。
彼はコーポレートR&Dグループを指揮し、ハーマンの音響および心理音響研究を監督しています。 1993年以前は、カナダ国立評議会の研究科学者であり、スピーカー、リスニングルーム、マイクの知覚と測定に焦点を当てていました。
ショーンはトロント大学で音楽の学士号を取得し、修士号と博士号を取得しました。モントリオールのマギル大学で録音の学位を取得。
彼の博士号研究は、部屋の音響適応と、スピーカーと部屋の間の音響的相互作用に関するものでした。
オリーブ博士は、1996年にAudio Engineering Society(AES)フェローシップ賞、2つの出版賞(1990年と1995年)、ALMA TitaniumとHarman Achievement Awardsを授与された音声の知覚と測定に関する50以上の研究論文を執筆しています。
ショーンはオーディオエンジニアリングソサエティの前会長です。

ショーンのブログ(プロフィール抜粋)
http://seanolive.blogspot.com

※本記事に翻訳転載ついてはPuro Sound Labs LLCに掲載許可を得ています。